非金融部門に進出を次々に成功させてきたSMBCグループ デジタライゼーションは社会や経済を大きく変える力がある。そのITやネットを活用することで、これまでにない新しいビジネスを生み出すことも夢ではないのである。 護送船団方式による大蔵省主導の経営に埋没してきた銀行業界の中でいち早く、非金融のビジネス領域にも勇猛果敢に進出してきたのが三井住友フィナンシャルグループだ。 2019年には弁護士ドットコムと共同で電子契約サービスを展開する「SMBCクラウドサイン」を設立。2022年3月には月間契約送信件数を2年間で約120倍に拡大した。 2017年にはeKYC(オンライン本人認証)や生体認証サービスを提供する「ポラリファイ」を立ち上げ、2021年度には1000万人を超えた。法人向けSaaSプラットフォーム「PlariTown」は会員数で2020年8月のサービス提供開始から2年たらずで約9000社まで増加。三井住友カードが展開するオールインワン決済端末「stera terminal」の導入台数は2020年7月のリリースから約1年半で10万台を突破した。銀行や決済に加え、証券、保険等、必要な金融サービスを1つのアプリにまとめて管理・利用できる「Olive(オリーブ)」はわずか半年で300万アカウントを突破した。請求書から決済までをつなげるWeb決済サービス「iB-tle(アイビートル)」は企業の仕事のやり方を一気に変革した。 こうした取り組みの土台を構築したのが日本総合研究所の谷崎勝教社長だ。谷崎社長は1982年4月に住友銀行(現三井住友銀行、SMBCグループ)に入社し、2013年4月には常務執行役員システム統括部長、17年4月には三井住友フィナンシャルグループ取締役兼専務執行役員グループCIO、18年4月には三井住友FGの執行役専務CDIOに就任し、現在は日本総研の代表取締役社長を務めている。 この間、2022年には日本でもっとも輝いた「最高デジタル責任者」に贈る「Japan CDO of The Year 2022」を受賞している。 いったいどのようにして三井住友フィナンシャルグループのDX戦略を推進してきたのだろうか。日本総合研究所の谷崎勝教社長に話を聞いた。 太田純前社長との二人三脚で始めた「ITイノベーション推進部」 ―― 三井住友FGのデジタル化の原点はどこにありますか。 世間では「金融とITの融合」という言葉がもてはやされていますが、僕に言わせれば、「ふざけんじゃない。うちは60年前からやっている」。金融はIT装置産業です。急に融合したわけではないと従来から言ってきているのです。うちでは1965年には普通預金オンラインシステムが構築されコンピュータ化を果たしています。 手作業でやっていたものを業務効率化の観点からどんどん機械にオペレーションを任せていこうというデジタイズの動きは何十年も前からやっていたが、テクノロジーの進化のスピードがどんどん速くなってきていて、今までとはテクノロジーの使い方が変わってきた。インターネットやスマホアプリの登場、さらにアジャイルというクラウドを使ったサービスの開発がどんどんスピードを増してきたので、SMBCとしても2013年ぐらいからデジタルの動きが始まった。 しかし急にやろうとしたってできるものではありません。最初は「お客さんがデジタルのサービスを使うようになったら、金融業界が提供しているサービスがどう変っていくのか」といったところから、しっかりと勉強していこうと考え、2012年にまず、「IT・ネット化戦略タスクフォース」が立ち上げられました。 ―― 最初はどのような形で進めていかれたのでしょうか。 私は亡き太田(純前社長)と二人三脚で2015年に「ITイノベーション推進部」を作りました。この時の担当役員が太田で僕は副担当でした。これをきっかけにデジタル化が急加速するわけですが、最初はそれこそ、勉強のフェーズだった。 例えば人工知能(AI)の開発で知られる東大の松尾豊先生を呼んできたり、GEジャパンのようなテクノロジーが進んでいる企業の社長と面会したり、経営陣を啓蒙することから始めました。「これから世の中変わっていってしまうから、技術のこともしっかり勉強しなきゃいけないよね」といって、いろいろ研究しました。職員向けには、僕と太田が一緒になって、夜間セミナーやったこともありました。地道に活動を続け、実際にITイノベーション推進部を作ろうという話になったのです。 ―― 新しい組織での活動はどうだったのでしょうか。 この時もまだ、何をやればいいのかわからない状況でしたが、「とにかく、やれることをやろう」「白地のキャンパスに俺たちしか描けない絵を描こうじゃないか」という思いでした。自分たちは「どうすればこのテクノロジーで新しいサービスが作ることができるのか」徹底的に議論しました。それでITイノベーション推進部を作って、いろんなサービスを出し始めたわけです。いろいろ作りましたが、世の中に出る前にだめになってしまったものもたくさんあります。それで2017年5月に成立した改正銀行法第一号認可と言われているポラリファイという生体認証のサービスが出たわけです。…
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